ホイールの設計講座 (6) ニップルの選定

ニップル

前回まででリム・ハブ・スポーク・組み方が決定しました。
今回の講座ではホイールの主要な部品としては最後となるニップルを選定します。

ニップルは地味ながらホイールの品質を決める上で重要なパーツであり,ニップルが低品質だとまともなホイールは組めません。

ニップルの内側にはメネジが切ってあり,ここのネジ溝の加工が丁寧だと組みやすいです。(スポークのオネジの方はショップでPhill WoodやKOWAとか転造してネジ加工するので,当たり外れがありコントロールできませんが…)

Phill Wood Spoke Cutter

Kowa(興和) スポークカッター

さて,ニップルですが材質が大きく分けて2種類あります。

真鍮ニップル:ブラスニップルとも呼ぶ。昔から使われており強度に問題なし。
真鍮はやや黄色みがかった色味だが市販のニップルは真鍮ニップル表面にニッケルのメッキ(銀白色)をしておりシルバーっぽく見える。
重量については重く,真鍮は銅に亜鉛を加えた合金のため比重 8.43gと重量級。
結果ニップル1個あたり6g程度と重いので,32Hなら6g x 32個 = 約180g程度になる。ホイール外周部で200gは重いので,軽量化したい場合には真っ先に削られる部品の一つ。

アルミニップル:市販高級ホイールでは大半がアルミニップルを採用している。その理由はもちろん軽さにあり,比重は2.7gである。(真鍮の比重8.43gの1/3しかない)
ニップル1個あたり2g程度なので32Hで組んだ場合には,120g程度ホイールの外周部を軽量化できる。(真鍮ニップルの場合180g, アルミニップルの場合60g)
これは加速感や漕ぎ出しの軽さに直接効いてくるので,加速感を重視するならアルミニップルがオススメです。

「アルミニップルは真鍮ニップルより弱い」説

ときどき「アルミニップルは真鍮ニップルより弱い」と言われることがありますがこれは誤解だと考えています。Sapim社Pillar社などはA7075(超ジュラルミン)の7000番台のアルミ合金を使用していると公称しており,A7075であれば真鍮ニップルに匹敵する引っ張り強さがあります。ホイール程度の用途であれば強度面で不安を感じる必要はありません。

ではなぜ,「アルミニップルは真鍮ニップルより弱い」と言われるのでしょう。唯一大きな違いがあるとすれば表面硬度です。

真鍮ニップルは表面がクロームメッキされていることが多く(真鍮は黄銅色ですが売られている真鍮ニップルはシルバーですよね?あれはメッキの色です。),メッキの仕上げによって表面が滑らかで高い硬度が得られています。クロームメッキはHV800以上と硬く表面が摺動する箇所によく使われます。

それに対してアルミ合金の中でも表面硬度が比較的高い7000番台の表面硬度はせいぜいHV170程度。クロームメッキよりもはるかに表面は柔らかく傷つきやすい。

ちなみにステンレススポークの材質で多いのはSUS304などのオーステナイト系ステンレス。刃物で使われるマルテンサイト系(SUS440等)より表面硬度は低めだけれど伸びやすく折れにくい丈夫な素材です。それでもSUS340の表面硬度は熱処理にもよりますがHV200-300程度はあるので,アルミよりははるかに表面硬度が高いです。

表面が硬いものと表面が柔らかいものが接触すると,表面が柔らかい方が削れます。それがホイール組の最中だとニップルとスポークの接触面でニップルのネジ溝が削れるという症状で現れます。なのでホイール組む人の中では”アルミニップルを使って組む場合はオイル/グリスをネジ溝に塗れ”というのが定石です。真鍮ニップルの場合,表面がツルツルしたクロームメッキでネジ溝も守られているので,オイルやグリスを塗る必要はありません。むしろ,何も塗らない方がニップルが緩みにくくて調子が良いです。このあたり,ホイールビルダーさんの好みもあるのでこの辺で。

まとめると「アルミニップルは真鍮ニップルより弱い」という言葉は,
引っ張り強さに関してはアルミニップルは真鍮ニップルと同等の強さがある
ネジ溝の傷つきやすさに関しては,アルミニップルは真鍮ニップルよりはるかに弱く傷つきやすい
と理解するといいでしょう。

また,アルミは合金の種類によって大きく特性が異なるので,低強度・低硬度なアルミニップルを使用した場合はA7075(超ジュラルミン)よりも半分程度の強度・硬度の恐れがありますので安物は使わずに,大手のDT SwissやSapim, Pillar社のアルミニップルを使いましょう!

ではどのニップルを選ぶか

アルミニップルの最大の欠点は価格の高さですが,といってもせいぜい1個35円程度で安いし,真鍮ニップルの2倍程度なので前後輪で64個使っても差額は1000円程度です。思い切ってアルミニップルを使いましょう。

真鍮とアルミの素材としての比較は以下の通り。(アルミはニップルでよく用いられるA7075の場合)

真鍮合金(C2801を想定)アルミニウム合金(A7075を想定)
比重8.43g2.7 (Good!)
表面硬さ(ビッカース硬さ HV)85-160程度(真鍮)
400-500(ニッケルメッキ)
800-1000(クロームメッキ)(Good!)
170 (A7075はアルミの中でも表面硬度高め)
引っ張り強さ325-470程度560 (Good!)
価格15円/1個 (Good!)35円/1個

今回の講座ではニップルを選定することができました。
次回の講座ではスポーク長さの計算をしていきます。だんだん難易度が上がってきますが,しっかりついてきてください。

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